インボイス制度 買手側の経理処理方法まとめ

まえがき

令和5年10月1日から開始するインボイス制度。消費税の制度が変わることは知っているけど具体的にどう対応すればいいのかわからない、、、という方も多いのではないでしょうか。また、インボイス制度は消費税の計算についての大きな改正であるため、改正により消費税に関する会計処理等も大きく変わります。
そのため、しっかりとポイントを押さえて対応できるように準備しておくことが重要です。

そこで本記事では、おさらいとして消費税計算の基本的事項とインボイス制度の概要を、企業の経理担当者に向けてインボイス制度開始後の買手側の経理処理方法を中心に解説していきますので、企業経理に関与している方は是非参考にしてください。

0. 目次

  1. 【おさらい】消費税の仕組みとインボイス制度
  2. インボイス制度開始に伴う買手側の経理処理
  3. まとめ&インボイス制度施行後の経理処理を円滑に進めるために欠かせない事前準備

1. 【おさらい】消費税の仕組みとインボイス制度

(1)消費税の計算方法

消費税の申告義務は原則として、課税期間の「基準期間」(個人は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円を超えた場合に生じます。(※1)
申告義務が生じた場合には、申告期限までに消費税の申告納税をする必要があり、その税額は下記の計算式で行います。
なお、消費税の計算方法には「本則課税」と「簡易課税」の2種類があり、事前に税務署へ届出書を提出しておくことで「簡易課税」を選択することが可能です。
また、「簡易課税制度」は基準期間における課税売上高が5,000万円以下である場合のみ選択することができます。

本則課税:売上消費税額 ー 仕入消費税額(仕入税額控除) = 納税額 or 還付額

簡易課税:売上消費税額 ー(売上消費税額 × (※2)みなし仕入率)= 納税額

(※1)その他にも特定期間(個人は前年1月から6月、法人は前事業年度期首から6カ月の期間)における課税売上高及び給与支払額の合計額が1,000万円を超えた場合も課税事業者になります。
その他、消費税の課税事業者判定は複数ありますので、下記を参考にしてください。

「No.6501 納税義務の免除」|国税庁
「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」|国税庁

(※2)みなし仕入率は業種により、控除率が異なります。
「No.6509 簡易課税制度の事業区分」|国税庁

(2)インボイス制度開始による影響

現行は上記の計算方法により消費税の計算を行いますが、インボイス制度開始後は、インボイス登録をした事業者にのみ付与される「インボイス登録番号」が請求書や領収書に記載されていないと、買手側の事業者は仕入税額控除を受けることができなくなります。
但し、経過措置として仕入先がインボイス登録番号を取得していない事業者であったとしても、令和5年10月1日から令和8年9月までの3年間は80%、令和8年10月から令和11年9月までの3年間は50%の仕入税額控除の適用を受けることができます。

「インボイス制度実施にあたっての経過措置について」|財務省

また、これに対応するべく免税事業者が自らインボイス登録事業者になることを選択して消費税の課税事業者となった場合は、売上消費税額の2割相当額を納税する「(※3)2割特例」という計算方法を選択することが可能となりました。2割特例の適用を受ける場合は届出書などの提出は不要であり、申告時において申告書に「2割特例適用」と記載するのみで適用可能となります。

(※3)2割特例は、売上消費税額のみを用いて納税額を計算することになるため、本来であれば仕入消費税額の詳細な区分は不要です。但し、2割特例は申告時に選択することでその適用を受けることができるため、決算が終わるまではいずれの計算方法が有利であるかは分かりません。そのため、決算が終わるまでは正しい消費税区分で会計処理を進めておく必要があるでしょう。

なお、選択適用できるのは、本則課税 or 2割特例、または簡易課税 or 2割特例となるため、事前に本則課税と簡易課税どちらが有利となるかを検討して届出書提出の有無を判断し、決算時に計算方法を選択するという流れになります。

その他、令和5年度の税制改正により下記の経過措置が設けられています。


【インボイス事務の負担軽減措置】
下記の要件を満たす事業者は、税込1万円未満の課税仕入についてインボイスが不要となりました。

  • 基準期間における課税売上高が1億円以下であること
  • 特定期間における課税売上高が5,000万円以下であること
(令和5年10月1日~令和11年9月30日までの期間について適用)

【少額な返還インボイスの交付義務免除】
税込1万円未満の返還インボイスの発行が不要となりました。
なお、返還インボイスとは、例えば、代金支払時に振込手数料等が差し引かれて振り込まれることがありますが、この差引かれた金額が値引扱いとなり、当該値引に関するインボイスのことを言います。 (令和5年10月1日以後の取引について適用)

【インボイス登録事業者申請手続き期限の緩和】
インボイス登録事業者申請書の提出期限は「課税期間の初日から起算して1カ月前まで」とされていましたが、改正により「課税期間の初日から起算して15日前まで」になりました。 また、申請期限について当初は令和5年3月31日までとされており、困難な事情の記載がある場合に限り柔軟に対応することとされていましたが、さらに柔軟化され、困難な事情の記載がない場合でも登録申請書が受理されることとなりました。 (令和5年4月1日以後に提出される申請書について適用)

2.インボイス制度開始に伴う買手側の経理処理

2-1.会計処理方法の変更

(1)適格請求書発行事業者とそれ以外への支払いを分けて経理処理する必要性

インボイス開始後の会計処理においては、インボイス登録事業者からの課税仕入については100%仕入税額控除を受けることができるため、今までと処理方法は変わりませんが、それ以外のインボイス未登録事業者からの課税仕入れについては、経過措置を適用する場合は当初80%の仕入税額控除となります。
そのため、取引先事業者ごとにインボイス登録事業者かそうでない事業者かを把握し、事業者ごとに消費税区分を分けて処理をする必要があります。

(2)適格請求書発行事業者以外からの仕入等について費用計上額が変わる

会計ソフト上の経理を税抜経理としている場合は、インボイス未登録事業者からの課税仕入れについては、現行よりも費用計上される金額が増加することとなります。

例えば、税込11,000円の課税仕入がある場合

  • インボイス開始前・・・費用10,000円 仮払消費税1,000円
  • インボイス開始後・・・費用10,200円 仮払消費税800円

インボイス制度開始に伴い取引金額に変更がない場合は、単純に費用処理する金額が増加することになります。取引金額が大きい取引先については、決算最終値にも大きく影響することが想定されますので、正確に会計処理を行うことができるように準備をしておきましょう。

(3)固定資産・在庫の取得原価が変わる

こちらも(2)と同じ理屈により資産計上すべき金額が変わってきます。 中小企業で青色申告をしている事業者においては、税抜30万円未満(299,999円まで)の固定資産については一括で費用処理できるという特例がありますが、インボイス制度が開始することによりこちらの適用可否の判定金額にも影響してきます。

今までであれば税抜経理の前提で考えると、税込329,999円(329,999円÷1.1=299,999円)までの設備投資であれば本特例の適用を受けることができましたが、インボイス制度開始後は、相手方がインボイス未登録事業者である場合においては、税込323,999円(323,999÷1.08=299,999円)までの設備投資までしか特例の適用を受けることができなくなりますので留意が必要です。

なお、上記特例を受けない場合においても、固定資産の取得価額が増加するということは減価償却費が増加するということになるため、毎期の費用計上額が増加することとなります。 また、在庫の取得原価についても、仕入として費用計上する金額が増加することとなります。

(4)経過措置

インボイス制度開始後は以前よりも消費税区分が増えるため、会計ソフト等に入力して集計する場合は注意が必要です。例えば、課税対象となる商品を仕入れた場合は下記の消費税区分になる可能性があります。会計ソフトによっては、取引先毎にインボイス登録事業者を登録しておけるものもありますので、事前に取引先の状況を把握して準備を進めておきましょう。

【令和5年10月1日~令和8年9月30日まで】

  • 課税仕入10%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入10%・・・インボイス未登録事業者(80%控除)
  • 課税仕入(軽減税率)8%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入(軽減税率)8%・・・インボイス未登録事業者(80%控除)
  • 課税仕入(旧税率)8%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入(旧税率)8%・・・インボイス未登録事業者(80%控除)

【令和8年10月1日~令和11年9月30日まで】

  • 課税仕入10%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入10%・・・インボイス未登録事業者(50%控除)
  • 課税仕入(軽減税率)8%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入(軽減税率)8%・・・インボイス未登録事業者(50%控除)
  • 課税仕入(旧税率)8%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入(旧税率)8%・・・インボイス未登録事業者(50%控除)

【令和11年10月1日以降】

  • 課税仕入10%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入10%・・・インボイス未登録事業者(控除不可
  • 課税仕入(軽減税率)8%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入(軽減税率)8%・・・インボイス未登録事業者(控除不可
  • 課税仕入(旧税率)8%・・・インボイス登録事業者(100%控除)
  • 課税仕入(旧税率)8%・・・インボイス未登録事業者(控除不可

2-2.帳簿記載事項の変更

(1)帳簿記載事項が増える場合がある

インボイス制度のもとでは、取引相手の求めに応じ、相手方にインボイスを発行する必要がありますが、その交付が困難な一定の場合には交付義務が免除されることとなっています。た、その際には一定の事項を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除が可能となります。

【交付義務が免除される取引】

  • 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
  • 卸売市場において行う生鮮食品等の譲渡
  • 農協等に委託して行う農林水産物の譲渡
  • 3万円未満の自動販売機等による販売
  • 郵便切手を対価とする郵便サービス

【帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能な取引】

  • 入場券等が回収されるもの
  • 古物商や質屋等が仕入れる古物、質物等
  • 従業員等に支給する出張旅費等
なお、帳簿のみ保存の特例の適用を受ける場合の帳簿記載事項は、次の通りとなります。
  • 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率対象の場合はその旨を記載)
  • 対価の額
  • 課税仕入れの相手方の住所又は所在地
  • 特例の対象となる旨

3.まとめ&インボイス制度施行後の経理処理を円滑に進めるために欠かせない事前準備

(1)まとめ

1.【おさらい】消費税の仕組みとインボイス制度の消費税についての基本的事項の解説では、消費税の計算方法は本則課税と簡易課税があり、一定の要件を満たした場合は簡易課税を選択することができる旨を解説しました。 また、インボイス制度開始により、現在は免税事業者であっても課税事業者を選択する必要性が生じることもあり、その場合は消費税の申告納税が必要となります。 但し、当面は経過措置の適用を受けることができるため、税負担や事務負担を軽減することができる旨を解説しました。

2.インボイス制度開始に伴う買手側の経理処理の会計処理の変更点の解説では、インボイス制度開始による会計処理の変更点について、経過措置等の適用を受けた場合の消費税区分について、そして帳簿のみの保存で仕入税額控除が受けられる具体的取引内容やその帳簿記載事項について解説しました。

(2)事前準備

インボイス制度開始にあたっては、支払先がインボイス登録しているかどうかを事前に把握しておくことが必要となります。支払先がインボイス登録していないと仕入税額控除できる金額が減少し、その結果、自社の消費税負担が増えることとなります。

まずは、取引先のインボイス登録状況を確認する必要がありますが、取引先の多い会社にとっては一社一社その状況を確認しなければいけないため、その負担は甚大です。 そのため、効率よく情報収集を実施し、一元管理できるようにしなければなりません。

取引先のインボイス登録番号を収集する方法は下記の3つの方法が挙げられます。

  1. 国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で調べる方法
  2. 取引先に直接連絡して確認する方法
  3. 外部サービスを使う方法

1. 2.については自力で情報を集めることとなりますので、取引先数によっては相当な手間がかかることが想定されます。 3. については、取引先のインボイス登録番号を簡単に一括チェックできるサービスもあり、当該サービスを通じて収集した情報の管理を行うことができます。 今後も取引先が増えることを考えると、当初から情報を一元管理する方法が推奨されます。 詳細はこちらの記事とサイトを参考にしてください。

取引先のインボイス登録番号を確認する方法 3選|TransAcc
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インボイス制度開始当初からインボイス制度に対応していくためには、事前準備が非常に大事であるため、早めに自社の進む方向性を決めて準備を進めていくようにしましょう。

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